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    【画法解説🖌️】遠近法とは?成り立ちと美術史における役割|新たな視点から絵画作品をより深く楽しむ

    私たちが絵を見たとき、「奥行き」や「距離感」を自然に感じられるのはなぜでしょうか。

    その秘密は、ルネサンス期の画家たちが編み出した遠近法にあります。

    遠近法とは、二次元の平面上に三次元的な空間を描き出すための技術。

    皆さんも、中学校の美術の時間に習ったのではないでしょうか。

    今日では当たり前のように使われている技術ですが、その誕生には長い歴史と画期的な発見があったのです。


    目次

    遠近法の誕生以前 ― 平面的な絵画表現

    まず、古代エジプトや中世ヨーロッパの絵画を紹介します。

    フネフェル《フネフェルのパピルス》(前1275頃)

    引用:フネフェル – Wikipedia

    チマブーエ《荘厳の聖女》(1280頃)

    引用:荘厳の聖母 (チマブーエ) – Wikipedia

    人物や建物は平面的で、大きさは奥行きではなく重要度によって決められていました。

    例えば、王や神は大きく、従者や庶民は小さく描かれる――これを「ヒエラルキー的尺度」と呼びます。

    空間的なリアリティよりも、象徴性や物語性が優先されていた時代です。


    ルネサンス期の革新 ― 線遠近法の発見

    遠近法が本格的に体系化されたのは15世紀初頭、イタリア・ルネサンスの時代です。

    (「ルネサンス」とは何だったのかについて、わかりやすく解説した記事がありますのでよろしければぜひ👇)
    【古代の尊厳の奪還「ルネサンス」、そしてキリスト教腐敗への糾弾「宗教改革」との関係について、ボッティチェリ『ヴィーナスの誕生』の功績に集約して学ぶ】
    【【初心者用🔰】【用語解説📖】「ルネサンス」は”ギリシャ・ローマ神話復興”なのにキリスト教の宗教画も含まれるのはなぜ?|宗教画から学ぶ「ルネサンス」の本質とは?】

    その立役者のひとりがフィリッポ・ブルネレスキ(Filippo Brunelleschi)。

    彼は建築家として、幾何学的原理を用いて空間を正確に描く方法を実験しました。

    これをもとに画家レオン・バッティスタ・アルベルティが『絵画論』(1435年)で理論化し、一点透視図法として広まりました。

    一点透視図法とは、すべての平行線が画面上の消失点(vanishing point)に向かって収束する構図です。

    画面中央が消失点

    引用:遠近法 – Wikipedia

    これにより、まるで実際にその場に立っているかのような奥行き表現が可能になりました。


    遠近法の種類と発展

    ルネサンス以降、遠近法は様々な形で発展しました。

    • 一点透視図法:道路や廊下のように、視線の先に1つの消失点がある構図。レオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』(1495-1498)が代表例。

    天井や壁、窓、机などの消失点がイエスの顔部分にあたる。実際、イエスの右こめかみ部分には釘の跡が見つかっており、その部分を消失点としていた。

    引用:最後の晩餐 (レオナルド) – Wikipedia
    • 二点透視図法:建物の角を正面ではなく斜めから見る構図。2つの消失点を用い、より複雑な空間表現が可能。
    • 三点透視図法:高所や低所から見下ろす/見上げる構図に使われる。3つ目の消失点で高さを表現。
    • 空気遠近法(大気遠近法):遠くのものほど色が薄く、輪郭がぼやける現象を利用。大気の影響を取り入れた表現で、レオナルド(《モナ・リザ》(1503-1519頃))やターナーが多用。

    世界一有名な絵画《モナリザ》の背景にもふんだんに使用されている技法。奥の景色ほどぼやけている。

    引用:モナ・リザ – Wikipedia
    • 逆遠近法:中世ロシアや日本画に見られる、奥に行くほど広がって見える構図。視点の不思議さが独特の魅力を生む。

    遠近法がもたらした美術の変化

    遠近法の発見は、絵画を単なる装飾や宗教的記号から、現実を再現する科学的な「窓」へと変えました。

    特にルネサンス期の画家たちは、人間の目に見える世界を忠実に写し取ることに熱心で、建築や彫刻とも連動して発展していきます。

    また、遠近法の概念は美術だけでなく、舞台装置や都市設計、地図制作にも応用されました。


    遠近法の限界と近代美術

    しかし、19世紀後半の印象派や20世紀のキュビズムは、あえて遠近法のルールを壊しました。

    モネは光と色の印象を優先し、ピカソやブラックは複数の視点を同時に描くことで、遠近法による一方向的な視覚を超えようとしました。

    クロード・モネ《印象・日の出》(1872)

    引用:印象・日の出 – Wikipedia

    パブロ・ピカソ《ゲルニカ》(1937)

    引用:ゲルニカ(絵画) – Wikipedia

    つまり遠近法は万能ではなく、あくまで表現手段のひとつであり、アーティストによっては「破るべきルール」にもなるのです。


    まとめ

    遠近法を知っていると、古典絵画を鑑賞する際にも「どこに消失点があるか」「なぜ安定感があるのか」が見えてきます。

    • 絵にリアリティや奥行きを感じられる
    • 美術館で絵を観るときの「視点」が増える

    など、より深く、より楽しく絵画作品を味わうことができるようになります。

    遠近法は、15世紀ルネサンスの革新から始まり、美術を科学的・空間的に進化させた重要な発明であり、それは今日のアートやデザイン、建築、映像にまで受け継がれています。

    そして、それを知ることは、単に絵を描く技術を学ぶだけでなく、美術史そのものを深く理解する第一歩となるのです。

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