こんにちは!皿(sara)です☺️
今回はヨハネス・フェルメール(1632−75、オランダ)作『真珠の耳飾りの少女(ターバンの娘)』(1665頃)を紹介していきます!
描かれているのは、振り向いた格好の少女だけ。しかも背景は真っ黒で、少女以外には何もありません。少女ただ一人にスポットライトが当たったような絵から、あなたは初見で何を思うでしょうか?
描かれた時代背景、フェルメールらしさ、他絵画との比較などから『真珠の耳飾りの少女(ターバンの娘)』の魅力を一緒に探っていきましょう!
シンプルながらも力強い時代背景
『真珠の耳飾りの少女(ターバンの娘)』が描かれたのは1655年頃。フェルメールの出生地であるオランダは16世紀末にカトリック国スペインに抵抗して独立を宣言したプロテスタント国であり、新興国でした。
(ルネサンスを経ての宗教改革に至る過程について尊厳の奪還「ルネサンス」と腐敗への糾弾「宗教改革」との関係について、ボッティチェリ『ヴィーナスの誕生』の功績に集約して学ぶのページでも解説しておりますので、よろしければご覧ください。)
当時のオランダでは旧来の王侯貴族ではなく、貿易で栄えた商人たちが力をつけていきました。17世紀半ば頃のイギリスが台頭するまでの間ですが、世界の海上の覇権を握った期間がありますので当然の流れと言えるでしょう。
さて、そんな商人たちの生活は当然貧しくはありませんが、かといって貴族のように派手でもありません。平たく言えば「普通」の暮らしでした。そんな商人たちにとって好ましいインテリアとしての絵画は、豪華なものではなく、家に飾れる程度の”落ち着いた”雰囲気の絵画でした。よって画家も商売ですから、売れる絵を描く必要があります。それまでの貴族が好きな豪奢な絵画から、一般大衆に広く受け入れられる落ち着いた絵が多く描かれるようになりました。当時はこうした絵画の転換点でもあったのです。
オランダといえば鎖国時の日本とも唯一交易をしていた国でもあります。遠い過去のオランダで生まれた絵画の経緯に、わずかながらもこうした日本との繋がりが感じられる部分があるのも面白いですよね。
さて、絵画を選ぶ上で「場所に合う」というのは大事なことだと思います。例えば下の絵画↓
引用:受胎告知 (フラ・アンジェリコ、サン・マルコ美術館) – Wikipedia
フラ・アンジェリコ作『受胎告知』という絵画ですが、本作は修道士が日々祈りを捧げる修道院の壁に描かれた壁画です。何度も目にする絵画があまり”味の濃い”ものだと、正直見飽きてしまう可能性もあります。お米は毎日食べても飽きないように、飾る絵画の”淡白さ””シンプルさ”というのは、長く好きでいるための必要な要素なのかもしれません。
『真珠の耳飾りの少女(ターバンの娘)』はその点、至極”落ち着いた”絵画ですので、その簡潔さ故に今日も世界中で親しまれ続けているのかもしれません。
ふんだんに感じられる”フェルメール色”
ここではまず、フェルメールの他の絵画を紹介します。
引用:牛乳を注ぐ女 – Wikipedia
引用:レースを編む女性 – Wikipedia
上は『牛乳を注ぐ女』、下は『レースを編む女性』という作品です(実は、フェルメールの作品で現存している作品はたったの34点前後なのだそうです)。どちらの絵にも鮮やかな青色が使用されていることがわかるかと思います。この青色は「フェルメール・ブルー」とも呼ばれ、フェルメールが好んで使用していた色になります。
この青色を出すにはラピスラズリという宝石が必要でした。とても高価だったため、実際当時の他の画家はあまり青を使用しなかったそうです。そんな宝石を好んで使うほどなので、フェルメールはさぞお金持ちだったのだろうと思ってしまいますが、実際は逆。
そもそもフェルメールが世界的に評価されるようになったのは没後200年経った19世紀に入ってからで、活動していた当時はむしろ膨大な借金を抱えていました。青色は余裕があったから出せたのではなく、むしろ苦しんででも出したかった色なのです。
『真珠の耳飾りの少女(ターバンの娘)』でも、ターバンは鮮やかな青色をして少女の魅力を引き立たせています。「他人にどう思われようとここだけはどうしても譲れない」という、一種頑固なるも信念のようなものも『真珠の耳飾りの少女(ターバンの娘)』は帯びているように感じられます。
素敵な異性と目が合った一瞬で起こる幸福感を表現
主役のモデルの少女ですが、実は諸説あって未だに正体不明なんだそうです。実の娘なのか、近所の素朴な町娘なのか、はたまた理想上の子なのか。この辺りは専門家でもわからないので、想像で楽しむ位で良いかと思います。
引用:美術検定実行委員会『美術検定4級問題集』(2019年 美術出版社)
上の写真は「美術検定実行委員会」さんが出版されている『美術検定4級問題集』のある1ページ。ペラペラと読んでいた時上記の問題を見つけました。答えはわかりますでしょうか。
答えは④「振り向いたポーズの美しさを描いている。」です(右の絵は竹久夢二『水竹居』)。正直私はこの説明を読むまで、ただの知識としてでしか『真珠の耳飾りの少女(ターバンの娘)』を見られていませんでした。
当方男なので女性の感覚は分かりませんが、「好感の持てる異性」を思っていただけたら良いでしょうか。ふとした瞬間に魅力的な異性と目が合うと「ドキッ」とするのは誰もが共感できる感覚だと思います。それは古今東西不変のものなのだと、改めて気付かされます。
『真珠の耳飾りの少女(ターバンの娘)』は「目があっただけでも幸福」という、素晴らしい瞬間を捉えた絵画なのだと思い知りました。
また、『真珠の耳飾りの少女(ターバンの娘)』には「ハイライト」というテクニックが使用されています。ハイライトとは瞳に加えられた白い点であり、目が輝いて見えます。ハイライトは今でもマンガやアニメで使用されているテクニックです↓
ハイライトお陰で少女の大きく丸い目が一際活き活きとするのですね。
『真珠の耳飾りの少女(ターバンの娘)』は例えばご夫婦などパートナーがいる方にとっては「一目惚れ」を思い出させるような、眺めるたびに思い出が蘇える楽しみ方ができるかもしれません。また、例えば企業などにおいては「一瞬で心を掴む何か」を感じさせる魅力へのインスピレーションを与えてくれるかもしれませんね。
おわりに〜どんな人におすすめか〜
以上でヨハネス・フェルメール作『真珠の耳飾りの少女(ターバンの娘)』の紹介を終わります。いかがでしたでしょうか。
本文でも申し上げましたが、私は本作について長らく、ただの知識としてでしか捉えることができませんでした。しかしその魅力を知っていけば行くほど奥深く、今回の記事を書くにあたり調べ直し、終わる頃には大好きな絵の1つになっていました。
女性が振り向きこちらを見ているという単純な構図ですが、その相手が素敵な異性だった時の一瞬で身体に湧く「ドキッ」と感、幸福感は他の何物にも出し難い特別な感情なのだと、改めて思いました。
…ここまで共感をいただけること前提で熱く語って参りましたが、読んでくださった方の大半が「いや、目が合ったくらいそんな大したことじゃないでしょ」「ちょっと考えすぎじゃない」という意見だったらどうしよう、と思い始めました。白い目で見られることに若干恐怖を感じつつ、ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました!
参考文献:井内舞子『教養として知っておきたい名画BEST100』(2021年 永岡書店)/ 佐藤晃子『名画のすごさが見える西洋絵画の鑑賞辞典』(2020年 永岡書店)/ 長谷川敦『世界史と時事ニュースが同時にわかる新地政学』(2021年 朝日新聞出版)