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絵画を深く見て観察力を上げるトレーニング!書籍紹介『観察力を磨く名画読解』

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こんにちは!皿(sara)です☺️

今回は、エイミー・E・ハーマン著、岡本由香子訳『観察力を磨く名画読解』という書籍について紹介します。

『観察力を磨く名画読解』は、樺沢紫苑さんという精神科医の方の書籍に出てきた一冊です。樺沢紫苑さんとは、多数の書籍を出版されているほか、Youtubeでも視聴者さんの悩みや相談についてとても優しく、そしてわかりやすくアイドバイスを送るなどの情報発信もされている方で、私も大好きな人です。

『観察力を磨く名画読解』は、「名画を通じて観察力を上げる」というコンセプトが一貫しており、「人にはどんな盲点があるのか」「観察力を上げることで、実生活にどんな変化がもたらされるか」ということなどを学ぶことができます。

著者に指示された絵をちゃんと時間をかけて見たつもりでも「では、女性の首元に〇〇があったことには気付きましたか?」と言われて見直すと全く気が付かなかった、というようなことばかりで、「ああ、自分は自分が思うほどちゃんと観察してないんだな」と痛感します。

以下、特に「読んでよかった!」と思ったことを紹介します。

目次

観察力向上がもたらす恩恵

『観察力を磨く名画読解』を読む目的はタイトルにあるように、「観察力を磨く」ことにあります。そして、観察力を磨くことによりどんな良いことがあるかというと、それは以下の言葉に詰まっています。

社会で活躍するためには、ものの見方を知ってさえいればいいのである。大事なのは、人とちがうところに目をつけ、または本来あるべきものが欠けていることに気づくことだ。それができれば好機をつかみ、解決法を発見し、警告に注意を払い、近道を見つけ、現状打開の糸口をつかみ、勝利をものにすることができる。大事な情報を見逃さずにすむ。

引用:エイミー・E・ハーマン『観察力を磨く 名画読解』(2016年 早川書房)

本書によると、美術館に行った人が絵画を眺める時間は1つの作品に平均17秒だけだといいます。あまりにも短すぎますね…!でも、そう言う自分はちゃんと普段意識して生活できているかと問われると、全く自信はありません。これが絵画作品ならさほど損もありませんが、日常生活においてはみすみす大きなチャンスを逃している可能性もあります。目に入るだけで満足してしまい、細部まで意識的に見なかったことで見逃している重大なことが今までたくさんあったと思います。

めざとく探す。集中して観察する。必要な情報がどこにあるか選別できるようになる。常日頃から全てのことに集中し続けるのは現実的ではありません。しかし、集中すべき場面、した方が良い場面は間違いなくあります。

そんな時、本書の「名画読解」トレーニングが大いに役立ちます!1つの絵画をじーっと見つめるトレーニングは、ただその絵画に詳しくなるだけではありません。「自分は本当に全てを見ているか」「何を考えながら見るべきか」「何が欠けているか」などを考えながら、実生活上の状況にも対応できるようになります。

本書は絵画に限らず、写真、像などの題材も豊富なので、様々なアプローチで「観察力」を改善するきっかけを与えてくれます。何か自分が考えなければならない時、何かを生み出さなければならないとき、何かを解決しなければならない時。本書でのトレーニングは大きな武器になるはずです。

自分と他人には、本当に”同じもの”が見えているか?

そもそも同じように見えていない

自分と同じものを相手が見ていたとしても、同じように見えているとは限りません。例えば、下の画像をご覧ください。

引用:エイミー・E・ハーマン『観察力を磨く 名画読解』(2016年 早川書房)

モノクロで、一見ただ適当な模様が描かれているようにも見えます。この画像の中には、実はあるものが写っています。少し探してみてください。ヒントは「動物」です。

引用:エイミー・E・ハーマン『観察力を磨く 名画読解』(2016年 早川書房)

正解は「牛」が写っていました。あなたは判別できましたか?私は見つけらなかったのですが、答えを見てからは牛しか見えなくなりました。このように、自分と他人が同じ対象を見ていたとしても同じように見えているとは限りません。

また、牛が最初から見えた人にとっては、もしかしたら牛の存在は言うにも及ばない当然のことかもしれません。しかし、人によっては気付かずにスルーしてしまう人、牛ではない他のものを見つけ(たつもりで)勘違いしたままの人、いつまで経っても見つけられない人など様々います。

よって、ここから得られる教訓は「自分にとって分かりきったことでも他人にはちゃんと伝える」ということ。自分と相手が同じものを見たとしても、同じ認知ができたとは限りません。そのコミュニケーションを横着せず、互いに確認し合うことで、無用なトラブルを避け、効率的で建設的な会話が実現するのです。

何を思うかは千差万別

引用:エイミー・E・ハーマン『観察力を磨く 名画読解』(2016年 早川書房)

急な画像で驚かせてしまったら申し訳ございません。人によっては少し苦手意識を感じさせてしまう画像かもしれませんね。中年男性が下着1枚姿で屋外にいます。さらに、目は閉じたまま、両手は前に出していますが力は入ってなさそうです。足は前に進んでいるので、どこか目的の場所に行く途中か、画面の外に目的の人がいるのか。

画像だけでは分かりませんが、実はこれ、タイトルがついているように、ブロンズ像の作品になります。だから危害が及ぶことはないのですが…

この作品が展示されたのはなんと女子大学の構内!人目につく場所でもあったことから、「こんな場所にこんなものを置くな!」と非難の声も多く、外国のニュースでも取り上げられたほどだったそうです。

ここで、あなたはこの作品を見てどんな感情を抱いたでしょうか。「気持ち悪い」?「面白い」?「特に何も思わない」?また、設置された場所という情報が追加された後ではいかがでしょうか。「人目につく場所に設置するのは不適切だ」?「気分を害する人もいるだろう」?「あくまで作品なのだから問題はないはず」?これも様々あると思います。

当然のことですが、自分と他人が同じものを見たとしても、思うこと、感じることは千差万別です。性格や好みが違えば、育ってきた環境も違います。

大事なのは、「主観的な意見と客観的な事実は分ける」こと。人間ですから、情報を得たと同時になんらかの感情も生まれるものです。事実は全員が納得できる情報ですが、意見や感情はそれぞれで全く異なります。今、自分たちは事実について話しているのか、意見について話しているのかという意識を持つだけでも、不毛な議論を避けることができます。

また、「人は誰でも色眼鏡をかけていることを理解している」ということも、コミュニケーションや作品理解に役立ちます。自分がどんな色眼鏡をかけて作品を見たのか。外したら何が見えるか。他の人はどのような色眼鏡を通して作品を見たのかなど、多方面から情報を解釈する足掛かりにもなります。

このトレーニングももちろん、美術作品の域を飛び越え、日常生活様々なところで大きな力となります。「色眼鏡の自覚」は観察力を養う上で、必須のプロセスと言えそうです。

自らの見方も変わる

最後の項では、見方は他人だけではなく、自分自身も違うものになる、ということを説明します。

引用:エイミー・E・ハーマン『観察力を磨く 名画読解』(2016年 早川書房)

引用:エイミー・E・ハーマン『観察力を磨く 名画読解』(2016年 早川書房)

上の2つの絵は、アンリ・マティスという画家が書いた、借家の窓から見たフランスの海辺の景色です。実は、全く同じ景色について描かれています。上の絵はカラフルに彩られ、穏やかな海と心地よい日差し、快適な空気感が伝わってくるような楽しい絵です。一方下の絵は、まるで廃墟のように殺風景で、窓の外には深夜のような暗闇があるだけで、他には何も見えません。

学者の考えでは、この変化はマティスの世界観によるものだとしています。

上の絵の後に第一次世界大戦が始まり、ドイツによる侵略で大勢のフランス人が死亡、故郷は侵略され、母親は敵領地内に残されました。友人たちは徴兵され、弟は相手国の収容所にいたそうです。マティス自身も志願しましたが年齢により断られ、海辺の借家にいることを余儀なくされました。

借家の地域は爆撃されることはなく、上の絵のころと変わらない営みがあったそうですが、マティスには同じには見えなかったのです。

見方は、自分自身でさえも変わり得る」ものです。それも、ただ良い方に変わるのではなく、マティスのように絶望に染まることもあるかもしれません。犯罪や事故、災害や戦争など、一個人では到底解決できない出来事に巻き込まれることもあり得ます。

できることは高が知れているかもしれませんが、それでもやはり、「見える景色が変わってしまう」ことを少しでも先に理解しておくことで心の準備ができるかもしれません。

一方で、今は全くの暗闇だとしても、自分の見方さえ変われば色鮮やかな景色になるということでもあります。時間がかかることもあるかもしれませんが、変えることができれば、いつまでも暗闇ということはないのです。

また、良い景色も悪い景色も経験できたとしたら、それは相当な強みになります。あなたにしか語れない言葉となって、別の誰かの景色を変えられるかもしれませんね。

おわりに

以上でエイミー・E・ハーマン著、岡本由香子訳『観察力を磨く名画読解』紹介を終わります。いかがでしたでしょうか。

本文では私が特に「面白い!」「勉強になった!」という箇所を紹介しましたので、個人的に「ちょっと気になったかな」という部分も申し上げておきたいと思います。

△ 原因と結論が短絡的
例えば、「成績が良くない高校の生徒にアートの授業を実施したところ、目に見えて集中力ややる気が上がった」などの表現がありました。しかしこういう場合は大抵、他の原因も存在しているものです。高校が「生徒の成績を上げたい」と動いたならば、きっとアート活動以外にも、成績を良くするための工夫をいくつか取り入れているはずです。その辺りの言及がなく、「アートが解決策だった!」と言わんばかりの結論だったので、返って陳腐さを感じてしまったところもありました。

△ 文章が簡潔でない
外国の書籍にはよくあることですが、「母親のキャシーは…」とか「運転していたデイビッドが…」とか、「いや、誰だよ」って(笑)。それなりに具体的に説明するものだから、数ページにわたって長々と読んだにも関わらず、結局そんなでもない結論で終わる、ということが何回かありました。重要な部分は人によって異なるでしょうが、私は「そんな長文で言うことでもないのでは…」と思う場面が多かった印象です。もっとぎゅっとできたんじゃないかな、と思いました。

ただ、総合的には断然気付きが多く、参考画像もたくさんあって分かりやすかったですし、かなり楽しんで読み進めることができました。他に出てきた絵画でも、「そこまで気付かなかった!」「一本取られた〜!」といった楽しみ方もあり、能動的に読書できて身になりますし、著者の丁寧で親切な問題提起と解説はまるで会話しているような心地よささえありました。本気でオススメする書籍です!

それでは、この辺で。ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました!

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